■キャラクター設定
■人物評
“ガウ”という名前が本名かどうかは、彼自身にも分からないらしいわ。何せ彼には、数年以上前の記憶がさっぱりなかったのだから。
ある時、彼は王国の西に広がる牧草地帯で目覚めた。覚えていたことは、断片的な自身の名前と、"戻らなければならない"という使命だけだったそうよ。
「戻るって、何処に?」
私の質問に、彼は笑って答えたわ。
「今のところ、それを探すのが俺の人生ってわけだ」
ガウはそんな、"白紙の冒険者"だった。
コロセウムにおいては、"太陽の戦士"という通り名で呼ばれていたわね。彼が操るタイドが、まるで陽光のような輝きを湛えていたことに由来するわ。普通、人間は複数のタイドをその身に宿すことはできない。だけど、彼はタイドを"宿す"というより、"纏う"ような未知の方法で活用していたみたい。
エスティア、ディエクス、そしてアイエンティの三つのタイドが、まるで調和するように。彼の周囲で一定の濃度になった時、彼は"陽光"を纏い、ヒト離れした身体能力を発揮する。
…まったく、今にして思えば、その戦い方を見た時点で気づくべきだったのね。彼がエレインと同類であることに。
豪胆で明瞭快活。絵に描いたような男性的な性格。その暑苦しさが、私は少しだけ苦手だったけれど。ルーセントにとっては良い兄貴分だったみたい。もちろん、ガウにとっても、ルーセントは大事な存在だったでしょうね。
ガウはまるで薄っぺらな自分の存在を世界に刻み込むかのように、自身の冒険譚を語っていた。それを楽しそうに、熱心に聞いていたのはルーセントだけ。今ではルーセントだけが…“彼が存在したこと”を証明できる、唯一の人間になったわ。
そう。“彼”はもういない。執行されたコロセウムの最中、ガウはルーセントの前に立ちはだかった。そして…恐らく死んだのでしょうね。
そもそも、ルーセントがコロセウムに参加したのは、彼の助言によるものだそうよ。「この国で願いを叶えるためには、どうしたらいい?」そんなシンプルな問いかけに対して、ガウは本気で答えたのでしょう。「王になっちまうのが早いだろう」と。
そして、彼は責任を取った。ルーセントという存在を、あの場所に導いてしまった責任を。私はその様子を、遠巻きに一瞥することしかできなかったけれど。
その姿は、闘技場で軽快に戦っていた彼とは全く異なる様相だった。黒鋼の鎧に身を包み、双つの長剣を手に。荒れ狂う様はまるで、空想上の怪物“騎士”のよう。
恐らくはアレが、彼の…思い出すべきではなかった“本当の姿”だったのだ、と考えた時。私は、この世界において“人間性”というものが、何の価値も持たないことを思い知ったわ。
奪うならば、何故与えたのか。創造主の魔性を見た気がしたわね。そして、ガウという固有の人格は消え、その肉体だけが、この世界で意味を持っている。
“傀儡王ルーセント”率いる王国軍、その先陣である東方征伐隊の最高戦力。双角のモルゴース。それが、彼の“成れの果て”に与えられている名前よ。
生きてる間も、死んだ後も、彼は変わらず、ルーセントの兄貴分ってワケ。
……なんか、笑っちゃうわね。