極北の賢者 ドロシー

■キャラクター設定


■人物評
ジャーン! 私よ!

でも、自分自身の評価って難しいわ。
まずはスペックの説明でもしようかしら。

私の学名はバベルワーズ。異国語の中でもとりわけて希少な"旧王国語(バベルワーズ)"に関する知識を持って生まれたことに由来するものね。

アイエンティの龍脈は、極北の夜空に続く、無限の蒼いオーロラ。その下に産まれた女の子はみんな、龍脈から何らかの“知識”を授かっているの。

そして、その知識が“希少なもの”だった子は“学院”と呼ばれる施設に召集される。そこで人生を費やして、頭の中身を真っ白い紙に"書写(コピペ)"し続けるのが“学徒巫女(オラクル)”と呼ばれる、私たちの業種ってワケね。

私が持っていた“旧王国語”の知識は、学院にしてみれば“大当たり”だったみたいで、彼らは、私の一生分の生活を保障してくれる代わりに、それを教えろと言った。

当然、辞めたったわ! お婆さんになるまで机とにらめっこなんて、ごめんだもの。キリのいいところで“私の知識は全て記し終えましたポヨ~”ってウソをついたの。大体、私に降りた知識が“旧王国語”だけっていうのもウソ。もっと根本的にいびつなものが、私の頭の中には渦巻いている。

でも、そんなのはあんまり重要じゃなくて。私が学院を辞めた本当の理由はつまり“好奇心ゆえ”のことね!

アイエンティが知るように、世界にはたくさんの言葉がある……あるはずなのよね。学院には“200種類以上の言語”に関する知識が埋蔵されているんだから。

だけど、私たちが使っている言語はたったひとつ。地方によって僅かな違いはあるけれど、基本的な文法は一緒よ。北方アイエンティもそう。南方ディエクスも、東方エスティアも、そして龍王国さえも。古くを紐解いてさえ、私たちが今使っているもの以外の言語は一切見当たらない。

まったくいびつよ。ゆがんでるわ。この世界は全てがおかしい。まるで百年かそこいら前に、突然産まれた赤子のよう。私の頭の中にある"別の人類史"の方が、遥かに信じられるわ。

だから確かめることにしたの。この世界の旧い神話によれば『人類の始まりは四方にあり、その旅路が重なった地点に"王国"が生まれた』と、あるのね。

みんなが信じているこの神話、バカみたいね。始祖となる文明が四つあったなら、当然文化も、言語も四つあったハズよね。“四つの川”がそうであったように。それが何の動乱も経ずに統合して、一つの国、一つの言語に? あり得ないわ、そんなこと。

だからこう考えたの、神話は全てが逆で『人類の始まりは“王国”にあり、そして我々は四方へと旅に出た』これならば、私たちの言語が一つであることの証明になるわよね?

そして私は、この仮説を証明するために、あのコロセウムに挑んだ。あの時は「王国の全てを調べるなら、王様になっちゃうのが早い!」って本気で思ってたの。


学院じゃ二番目の使い手だった、この槍と! 地下書庫から発掘した二羽の鉄鴉、この「不銀」と「無仁」さえあれば! 負けるハズはない! ……って思ってたのね。あの時は本気で。

試合の結果はまぁ、酷いモノで。

私はルーセントに負かされて、それでも好奇心を諦めきれなくて、彼の手助けをしてしまった。彼と知り合いになって、そして彼が王様になりさえすれば、真理に近づくチャンスが得られるかも、なんて考えてたから。

それがどうして今“傀儡王ルーセント”と戦う勢力の、軍師なんて立場にいるのかって? それはもちろん罪滅ぼしよ。だって今こうして、ルーセントによって世界が滅ぼされかけてるのって、ほとんど私のせいなんだもん。

ルーセントをあそこまで導いてしまったこと、真実を伝えられなかったこと、そして、彼の心を救えなかったこと。

この物語が、人類にとってのハッピーエンドを迎えられなかった理由はね“私の能力不足”以外にないのよ。テレンスやウィルは「あんまり気負うな」って言ってくれたけれど、それって無理な話なの。まったくもって。

はい。
そしたら、私の話はおしまい。
次は彼の話をしましょ。

人類の天敵。
“傀儡王ルーセント”の話をね。