狂奔のルーセント

■キャラクター設定


■人物評
“月の教団”の最高指導者だった人物ね。王国に住む人間で、彼を知らない者はいなかったでしょう。コロセウムに参加するため、周辺諸国からやってきた人間も、やがて全員が彼の存在を知ることになったわ。

そして、今となっては、世界中の人間が彼を知っている。
――“傀儡王”ルーセント。

神の慈愛の簒奪者。
龍脈の破壊者。
人類の敵対者。
月の暗君。
邪龍。

蔑称には事欠かないわね。それほどに今、世界中の人間が、彼の死を願っている。彼の生を呪っている。恐らく歴史上、彼ほど悪名高い王はいないでしょう。永劫に語り継がれるはずよ。

彼が人類に与えた損害。
彼が人類から奪った可能性。

まあ…そんな与太話はどうでもいいわ。
あの時の“史実”だけを話しましょうか。

その猪突猛進な戦いぶりから、コロセウムでは“狂奔”の通り名で呼ばれた拳士ルーセント。そしてコロセウム開催の数年前、“月の教団”の内部から“教皇”として選出された聖職者でもあるわ。この両極端な二面性が、彼という存在の要ね。

教皇としての彼は、その美貌と神秘的なカリスマ性とで、国民からの人気は高かったみたい。確かに顔は端正で、ちょっと中性的なキレイさがあったわね。まるでお人形みたいな。

彼の言葉はまるで“大気を震わせるよう”であるとされ、彼に洗礼を受けた信者の多くが“まるで龍脈と融和するような”霊的体験を告白したとか。探れば探るほど、そういう霊験あらたかな逸話がポコジャカ出てくるわ。

で、そんな彼がどうして、闘技場なんて場所に?
王国中がそう思ったハズよ。

“教皇”は、間違いなく、王亡き龍王国の最高権威者。実質的な支配者だったのよ。だから、改めて王位に就く必要なんかまったくなかったわけ。

「今回から、コロセウムによる王様の選出は終わりです」そう言っちゃったって通るくらい、王国における“月の教団”の影響力は絶大だったわ。

だからまぁ、城下町で流れていたのは、こんな噂。
『ルーセント教皇猊下は、教団と袂を別ったのではないか?』

根も葉もないものだったけど、噂はいつしか確信に。国民はこのイレギュラーな挑戦者に対して沸きに沸いた。暗躍の噂が付きまとう“月の教団”よりも、アバターとして国民に親しまれる“ルーセント教皇猊下”ただ一人の方が、信用できるってね。


そして、コロセウムは執り行われた。
結果は人類史が知る通り。

世界からタイドの加護は失われ、
この世界に住む人間の半分が“大気アレルギー”で死んだ。

王宮より外の領地は滅び去り、王国には、今や“斜陽の塔”ひとつ。その玉座には、教団に操られるままの孤独な王が一人。

……コロセウムで戦う彼は、本当に人気だったのよ。その繊細な体躯からは、想像もつかないほどの膂力、そして戦意を以て、自分の数倍のサイズを持つ相手にだって、果敢に挑んでいく。泥臭いけれど、その姿はまさに英雄然としていた。

誰もが思ったでしょう。
“この幼く、美しき英雄が王ならば”と。

でも……私は、人類が“騙されていた”とは思わないわ。それに、彼が“暗君”であるともね。もし私が、彼と同じ境遇だったら、ってよく考えるの。

産まれながらに、教団の“装置”として生きることを定められて。何も自由はないけれど、それを不自由に感じないほど、その精神を破壊されていて。たった一つ…人生でたった一人、自分自身で見つけて、出会ったものを、“助けてあげたい”と思った。

私が男の子だったら、って話じゃない。
もちろん、人類の半分を天秤にかけて……って話でもないわ。

自分にとってたった一つの、“価値あるもの”のために、我武者羅になるのはしょうがないって話よ。それこそ、それが“狂奔”と謳われるほどであっても。

だから、世界中の人間が彼を呪ったとしても。
そうね、私だけは……彼を許してあげようかな。