「神を鋳造する」という命題は、新生した教団が持つ唯一の目的であり、
その成否は、そのままこの世界を「次代に遺すべきか否か」を問うものだった。
かつて「生体CPU」と呼ばれていた実験体の第1号を経て、
そのスケールアップモデルとして、斜陽の塔との物質的な接続を必要としない第2号。
「ルーセント」を完成させた。
そして、その稼働データを基に製造された「彼」は、教団による「惑星管理」にまつわる技術の、まさに集大成と言えるだろう。
塔との接続を必要とせず、自らの動向を観測、管理し、完璧な理性により制御する。
絶えず自己進化を繰り返し、人類にとって最適なタイドバランスを調整し続ける。
ルーセントがもたらした破滅的な失敗を糧に、
数人の学徒巫女を含んだ教団技術者、いわば当代の人類知の結晶が、
それでも僅か三年という期間の内に造り上げた、次代千年の主神。
それが「太陽の御子」だ。
固有の名を持たぬこの神は、極限まで薄弱化された自我と、
反比例して強固に構築された俯瞰の視野を有し、
自らを含む星の全てを律し、あらゆる龍脈(ナノマシンベルト)を管理運用する権能を持つ。
ところが、形式上、傀儡王ルーセントの実子として公表されていたこの存在は、
教団が設計していた通りの性能を発揮することはできなかった。
幾度抹消しようとも「人格」は何処からか現れた。
ヒトの形を取る以上、その現出を止めることは不可能であるかのように。
あるいは、彼自身が自らに「選評者足る資格」を見出すべくして、
努めて、自我を複製し続けたのかも知れない。
ともかく、教団が造り上げた次代の神は、
およそその特性に似つかわしくない、幼心を有して顕現した。
ルーセントと共に学び、遊ぶ。
その姿は、親子というよりも、年の離れた兄弟であるかのようだった。
ザヴィアーと呼ばれる学徒巫女からは人間の喜楽を学び、
教団主席、聖女アンジェラからは人間の哀怒を学び、
そしてもう一人の学徒巫女、後に教皇として選出されるキャサリン・トロイホースにより、
自ら考え続け、正答を導くために必要な「作法」を学んだ。
一方で、彼は自身の存在する理由に悩みもした。
教団が彼に求めたことは、世界に満ちるタイドを管理し、正しい任務へと復帰させることによって、
始祖惑星、それをこの大地に再現することだったはず。
ところが、ルーセントはもちろん、彼に「ヒトのフリ」を教えた幾人かの者たちは、
誰もが彼に「そうしろ」とは言わなかった。
彼の母代わり、教団主席のアンジェラさえもである。
彼は、その意図を読み取った。
そして、自分が「寵児」なのだと知った。
彼らは自分に「選択」させようとしている。
ヒトの美醜を体現し、その上で、
―――ボクに、
選ばせようとしている。
この星の上に、古き理を再現するべきか。
それとも、新しき理を実現するべきか―――。
彼らの意図を見抜き、太陽の御子が最初に感じたものは、漫然とした「退屈さ」であり、
同時に、当代の人類が決断すべき問題の責任を放棄した「彼ら」に対する、大きな失望だった。