■キャラクター設定
■人物評
エスティア連邦王、シャパート1世。
東方建国の祖であり、偉大な英雄王として知られる人物ね。私の世代からすると、英雄というよりは、もはや伝説に近い存在かしら。
東方に奔る龍脈"エスティア"は、剥き出しの岩山が連なる紅い山脈。エスティアのもたらす変容は、肉体をより壮健にし、獣の才覚を与えることで知られているけど、彼はその恩恵を、誰よりも強く受けた人物…というのは、見れば分かるわね。
そう、彼は賢いワンコではなく、人間なの。人狼と呼ばれることが多いようだけど。
世界は、龍脈ありきのもの。土地を支配する龍脈の特性が、そのまま該当地の社会構造を形成する事例が侭(まま)あるわ。エスティア連邦において人物はまず、"肉体の壮健さ"を評価されるようにね。
私の住んでいたアイエンティと比べると、呆れるほどの体育会系なんだけども…。その昔のエスティアには、さらに呆れた暴力主義の時代があったのよ。そこに変革と秩序をもたらしたのが彼、若き日のテレンス・シャパートだったのね。
有り体に言うと、テレンス青年は、エスティア地方でイチバン強い戦士だったの。つまり彼は、エスティアの覇権を握ることも夢ではなかったワケ。でもこの賢いワンコは、権威も強勢も望まず、不毛な戦争行為を、ただ諌め続けた。
山間で争っていた蛮族たちは、ことごとくが彼の"威"を思い知ったことでしょうね。"テリー戦士旅団"と呼ばれた、恐るべき集団武力は、彼らの略奪の計画を叩き潰すことはあっても、彼らを虐殺することはなかった。なのに蛮族たちは、報復することを考えられなかったのだから。
今でも山間の氏族には、こんな警句が伝えられているわ。
『仲間同士であっても決して"いさかい"を起こすな。狂った狼の群れが来るぞ。』
それほどに強烈な恐怖…というか、畏怖を感じさせる存在だったのでしょうね、若き日のワンちゃんは。
そうして、エスティア中に彼の勇名が響き渡った頃。
彼に命を救われた者たち、
彼の指針に共感した者たち、
彼の強さに打ちのめされた者たち、
まあそういう連中が、ひとつところに集まった。
そうして、エスティア連邦という国家の母体になる村落が出来上がったのよ。山間の氏族を全て従えるまでに、それからまた10年くらいかかったらしいけど。
王としての彼に初めて対面した人は驚いたそうよ。聞きしに恐るべき、あの"テリー戦士旅団"と呼ばれていた集団が実は存在せず、"それ"がこの、温和で人懐こい、ワンちゃん一匹を指す言葉であったことを。
私も…初めて彼と話した時、あんまりにも丁寧な言葉使いと、謙虚な姿勢に驚いたもんだわ。語尾に「ワン」がついてないことにもね。ま、生来のバトルマニアな部分は、まったく隠していないところなんかは、好感が持てるわネー。
エスティア連邦に世継ぎを残した後は、世界を巡って達人を訪ねる、変な外国人みたいな生活を送っていたみたい。シャパート2世は彼の娘らしいけれど、娘もワンちゃんなのかしら?
まぁ、それはともかくとして―――、
歴史の表舞台からは既に退陣した、生ける伝説の英雄王。
闘技場を沸かせるには、うってつけのワンちゃんだったんじゃない?