■キャラクター設定
■人物評
全くもって正体不明の人物。
いや…"人物"であるかどうかも疑わしいわね。
通常、人間は複数種のタイドを操ることはできないの。ひとつの身体にいくつもの変容が与えられれば、それらは相互に妨害しあって、肉体の崩壊を招くわ。
でも彼女は違う。その周囲には、"三種のタイド"が同居し得るの。そもそも、彼女にとってタイドは"変容の力"ではないのかも知れない。
ただ、その出力は圧倒的よ。彼女は、タイドによって産み出した物理的な推力を、攻防巧みに使い分けてくるわ。彼女に対抗できるのは、本気を出したガウくらいのものでしょうね。
でも、それ以上に厄介なのが、彼女の持つ大剣状の不明兵器"ダアト"の存在ね。この兵器がもたらす"事象跳躍"は…彼女自身を"重なり合った状態"にする能力―――あるいは、すべてを"多世界解釈の箱"の内側に納めてしまう能力かしら。
彼女に攻撃された相手は、幾重にも分身する彼女の姿を見ることになるわ。そして反応するでしょう。襲い来る彼女の刃を避けなくては、と。
上空、側面、背後、足元、そして正面。あらゆる方向から同時に攻撃された時、もしあなたなら、どれを避ける?
そう、正解はないの。分身は全てが虚像であり実像。結果として、無数の攻撃の中で、相手に最も効果的なダメージを与え"た"攻撃と、そのオーナーである彼女だけが、事実として観測可能になる。無数に枝分かれした可能性の中から、その全てを"同時"に実践し、最も有益な結果だけを選ぶ能力。それが、彼女が闘技場で獲得した通り名、"事象渡り"の所以でしょうね。
もちろん、この能力は万能じゃないわ。あくまでも"ダアトによる斬撃を、彼女自身が行う"事象に限定される。"その局面において、殺しようがない相手は殺せない"ってことを、あのワンちゃんが証明したわね。
いくらサイコロを振りなおせるとしても、最大値より大きい数字は出せないってワケ。にしても…"サイコロを振らずに置く"だけの能力なんて、まったくナンセンスよね。
ああ、うん。彼女が持つ戦闘能力の話ばかりになったけれど、人物としての彼女は、本当にアンノウンもいいとこだったのよ。神出鬼没にも程があるし。
明らかになっていたのはその目的と、コロセウムにエントリーされていた"エレイン"という名前だけ。彼女の目的はただ一つ、「ルーセントを殺すこと」…みたいね。でも、それが彼女自身の意志かどうかは、ちょっと分からないわ。
私の目から見た彼女は…その、説明が難しいんだけど。怜悧冷徹で、まるで機械のような戦いぶりだったけれど…なんていうか。彼女は…余計な犠牲を嫌っているように見えたの。
本来なら、コロセウムを丸ごと吹き飛ばしてしまえるだけの奔流をその身に纏いながら、彼女の武器はあまりに局地的で、単体攻撃にしか使えない。それに、ルーセントを殺すだけなら、闇夜に紛れた暗殺を狙ったってよかったハズなのよね。それをわざわざコロセウムに参戦の登録までして。
「私も特殊部隊にいた頃は、何度も命を狙われましたが…。ええ、これほどまでに"生真面目な暗殺者"は、ちょっと見たことがありません。」
っていうのは、彼女と直接剣を交えた、ワンちゃんのコメントね。まぁでも、それを"高潔"って形容するのは…ちょっと無理があるかしら。
いずれにせよ、その姿と、存在感。旧い神話に登場する空想上の怪物…"騎士"を彷彿とさせるわね。…彼女の、その後? まぁ、根本的な部分は変わってないわ。彼女はいつでもルーセントの敵。つまり今は、私たちの味方として見ても、問題ない存在ってことよ。
次にいきましょ。