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太陽の御子は瞳を輝かせた。
塔がその形状を変化させながら、地底より光を噴出して動き出す。
地の一切合切を薙ぎ払い、轟音と、噴煙と共に浮かび上がる。
「星間移植器」は、その本来の機能を発動させようとしている。
そうして地を離れ、ゆっくりと、だが加速しながら天へと昇っていく。
自らの「故郷」でもあるその巨大な建造物の輝きが、
同時に、太陽の御子の瞳に焼き付いていく。
彼自身、塔の頂上部を離れ、
自由落下に身を任せた状態でありながら、
それでも恐怖より、好奇心が勝っていた。
キャサリンが約束したその光景は、
あまりにも「正しく」、
そして「痛快」で―――、
零れる笑みを我慢せず、太陽の御子は落ちていった。
ルーセントの腕に抱かれた彼の姿は、最早「神」のそれではない。
―――全てのタイドに滅びを。
ルーセントの願いは叶えられ、そして、
タイドによって構築されていた、ルーセント自身の命も尽きていく。
二度目のコロセウムを勝ち抜き、その願いを告げ、
そして王でなくなった彼の最期の役割、それは。
『ソラ。』
自分の息子を、地表まで無事に送り届けることだった。
『アンジェラさんが、辞書を引いてくれたんだ。
きみの名前は「太陽」って意味がいいね…って。
だから「ソラ」がきみの名前だよ。』
聞き慣れぬその語句が、
以降の自分を示す記号であるという。
ソラと名付けられた少年は、
何となしにその響きを「悪くない」と思って、また微笑んだ。
でも今は未だ、遠ざかっていく「故郷」に目を奪われている。
あと数瞬の後に、やっと自覚した「唯一の肉親」との別れが迫っているとしても。
それでも尚、好奇心が勝ってしまう。
瞬きすら惜しんで、遠ざかっていく移植器の姿を眺めていたい、と。
ソラは思った。
結果だけを見るならば、この「創世」はあまりにも不格好な残酷劇だった。
多くのヒトが死に絶えることに始まり、残るものが生に縋り、さらに多くの犠牲を以て、ヒトは生き残り、しかし「神の恩寵」を失う。
そのどれもが、地表に生きる人々の意を介さぬ独善的な決断によって為され、
彼らの意思を体現した「王」でさえ、過ぎたる暴力の前に駆逐された。
神は傲慢な結論によって人々に明日を与え、
自らはその神性を終えて失墜する。
そんな、ヒトモドキのエゴに始まり、エゴに終わる。
こんな不細工な物語を。
それでもソラは、やはり「悪くない」と思った。
「明日」の価値は、自分で定める他にない。
だからこそ、自分に与えられた「明日」は、
地表の全てを破壊し得るあの「太陽」でさえ、
到底及びつかぬほどの輝きを有している、と。
地の一切を滅ぼすために蓄えられた力は、今、
その本懐を遂げることなく、塔と共に空へと放たれていく。
それがいい。
それが自然だ。
そこが「太陽のあるべき場所」だ、と。
ソラは思った。
人の手の、届かぬものであるべきだ、と。
そうしてついに、地表が来る。
ソラは瞳を閉じて、自らを抱く王の腕に、強くしがみついた。
王は最期の力を振り絞り、自らを構成するタイドを用いて、
ソラを包む光の繭を構築する。
恐怖はない。
きっとルーセントは上手く着地するだろう。
だから自分も、上手くやらねばなるまい。
手渡された明日を、
精々ヒトらしく生きねばなるまい。
そうして、地表に光の繭が堕ちる。
吹き荒ぶ風と砂が、全てを覆い隠す。
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太陽の御子 - end